『アラスカ物語』新田次郎

 数ある後輩の中でも最も熱い男の熱い勧めにより借りた一冊。熱いよ!
 明治元年、宮城県石巻町生まれの日本人としての安田恭輔、そして、アラスカで生涯を過ごしたエスキモーとしてのフランク安田の話。もちろん同一人物。

 実話ってんだから半端ない。実話だからこそ、親族はガンガン死ぬし、初恋の相手は親の権限で無理矢理別の人と結婚してしまったり。子供も死んでしまったり。小説何かよりやっぱり事実は辛いなー。

 医師の名家に産まれ祖父に溺愛されて育つも、7才で祖父を亡くし、14才で母を亡くし、15才で父を亡くす。父の死のタイミングが悪く、恭輔はいい年で引き取りてなどもなく、学校入学する前だったのでお前は就職しろ言うことで、菱の船会社に就職する。なお、自分より年上は医学学校に既に通っていたので、通い続け、自分より年下は、親戚に引き取られてやはり医者になったのであった。
 船会社に就職し、22の時にはアメリカ船に乗っており「やーいジャップ」といじめにあいながら(もちろんもっと辛辣)しこしこ働く。
 そんななか、アラスカでシーウルフ(海賊みたいなもん)を追いかけている内に、船が氷に閉じこめられる。さらに、備蓄されているはずの食糧がなぜかとても少なく、その疑い(途中で売り払ったとか)をかけられ、命の危機すら感じたフランク安田は、一人で吹雪の中救援を求めに行く。

 なんだこの人生。

 無事町にたどり着き、助けをよこすも、船には戻らずアラスカで生きることに。
 ここまでの話でかなり面白い。当時の日本の家制度的なもの、アメリカでの日本人の扱い、アラスカという環境の過酷さ。季節によって一日中日が出ていて眠れなかったり、冬は日が出てこなかったり。フランク安田は、星の位置なども感覚に入っていないので、必至で星の動きをマークして、方角を失わないように苦労する。なお、方位磁石は正確に北をささないため、北に近いアラスカでは役に立たないそうだ。

 エスキモーが鯨をとって生活しているところに、白人がきて鯨を乱獲して去っていく。鯨が捕れなくなり、町が滅んでいく。経済学は、稀少な鯨が生産性の高い人の元へ配分されたと喜ぶのか。どんな理屈で、鯨の乱獲はだめと言えばいいのか。理屈抜きでエスキモーは食料と文化を一瞬で破壊されてしまう。

 日本を出てからはフランク安田と名乗っておるようで、彼はエスキモーに同化しつつも日本人として頑張っていたことがある。
 エスキモー社会では、嫁を親睦の証として他の男に貸したりするらしい。これは、命の危険が高い生活の仲で血縁関係者を増やして、自分の子供を育ててもらったり、コミュニティーを守る知惠だったそうだ。しかし、エスキモーの嫁をもらう事にもなるフランク安田はこれを拒否し、嫁の貞操を守る努力をエスキモーに伝えるなどしていたそうだ。丁度嫁もキリスト教の教えが入ってきているところで、勉強熱心な嫁さんは、自分の置かれている立場(女性は人権を剥奪されている)を理解して、フランク安田の意見を受けいれていったのであった。

 最終的には鯨に頼ることが全くできなくなり、フランク安田がゴールドラッシュにのっかり、見事金鉱山を見つけ金の力でエスキモーを助けたりする。しかし、鯨を捕っていた時とは全く違う社会であり、それに戸惑うエスキモーの姿はかなり切なかったり。

 フランク安田は結局エスキモーに近代的な生活を教える事で、町の壊滅という危機を防いだ。しかし、少なくともエスキモー(まあ言えば男性だけかもしれないけど)にとって良い選択だったと言えるのかどうか。きっかけはタダの鯨の乱獲なのだから・・・。ひっじょーに後味の悪い本である。
 日銀の総裁でさえ、世界の競争に勝たなければ日本はダメになると言う社会。賢い人にはもうちょっと、もうちょっと社会の仕組みをかんがえて欲しいなあと思うのでした。わしら、一般人が穴を埋めるように頑張るかラサー。
1600字

Pages:
  1. これは面白そうだ。
    相変わらずいい本読んでるなぁ。
    フィクションばっかりになりがちな自分にとってはよき目標です。

  2. やいだ(みむら)

    いつも、コメントありがとうございます。
    だいたい出先で読んでニヤニヤして、
    コメント返事出すのを忘れる次第です。
    と言い訳カコワルイ
    お返事遅れまして。
    大変申し訳ないです。

    ゆーしゅうな後輩に恵まれた結果です。
    まー本読むきっかけなんてそんなもん
    ばかりかもしれませんが。
    受け身な自分的にはありがたいお勧めでした。

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