インド映画『めぐり逢わせのお弁当』監督:リテーシュ・バトラ

『めぐり逢わせのお弁当』というタイトルからはとても想像のできない、深く濃い映画で、2回劇場で見てきました。
 主演のイルファーン・カーン氏の演技が本当に素晴らしかった。弁当食べるだけで感情を表せるなんてっ。

 話としては、妻に先立たれ仕事一筋で無愛想な退職間近のおっさんサージャン(イルファーン・カーン)と、ろくに口もきかない夫にそれでもどうにか振り向かせようと頑張る一女の母イラ(ニムラト・カウル)が、お弁当の誤配によって文通を始める。
 まずもって話の前提であるインドのお弁当配達システムダッバーワーラーがすごい。元は宗教上食べられないものがあったりするので、家で作った弁当を配達するために出来たシステムらしい。旦那が出て行った後に配達員に渡すので、旦那より早起きなんて必要も無く、奥様も便利そう。

 で、ですよ、こっからは問答無用にネタバレも含みますが。
 基本的にはくらーい雰囲気が映画全体を包んでいます。それは、どの人物も重たい問題を抱えており、こと独り身となった主人公の、職場でも一人でご飯を食べ、近所づきあいも殆ど無く、35年間一度のミスもしなかった職場から定年退職を迎える男の行く末なんてのは心引き裂かれそう。
 ヒロインのイラが、洗濯物の臭いで浮気を文字通り嗅ぎ付けるシーンなんてのはもう。
 そして、インドでは切っても切り離せない自殺問題。序盤朝の渋滞で、タクシーの運ちゃんに「あのビルから母と娘が身を投げたんだってよ」という、悲しい伏線を張って物語は何事も無かったかの用に進んでいく。
 これらの暗ーい背景を、それぞれが背負ってそれぞれに模索しながら進んでいくので非常に勇気ももらえると思う。暗いながらもそれぞれが誠実に、道を踏み外さないのもまたいいですね。

 それでも、ちょっと抜けたサージャンの職場の新入社員シャイク(ナワーズッディーン・シッディーキー)がきちっと笑い場を作ってくれる。さらに所々で音楽で盛り上げてくれるのもさすが。ただ、普通の?インド映画のように不自然に歌ったり踊ったりというのはない。

 お弁当が届いたときのサージャンと、その隣の同僚の反応がまず面白い。最初は目にもしなかったのに、チャックを開けてクンクンしてみたり、お昼休みが待ち切れなかったり、中年おじさんがむちゃんこ可愛い。お弁当でこれだけワクワクできるっていいなあ。
 それと対応するのは、サージャンが食べたお弁当箱が帰ってくるのを待つイラの描写。空であることを喜び、手紙を広げてまた喜ぶ。これまた可愛い。
 誰もが思うはず、サージャンがイラに会いに行くときの加齢臭問題。もー心ぞわぞわしましたね。その後急に席譲られちゃったりして。俺達も年取るのである。

 いまいち理解できていないのが「雨」の意味。一番序盤で、イラが娘に雨が降ると危ないから木の下とかいったらダメよ。という下りがある。また途中にシャイクの結婚式で「最近雨が降らなくておかしいねえ」というところが。物語中雨が降るのは序盤の、配達屋が運んでいるところだけで、エンディングまで雨は降らない。物語の流れとして、無駄な言葉は無いと思うので、雨が何を示そうとしているのか気になる。
 あと、エンディングは、いろんな解釈がやっぱりあるのだろうか。イラは普通にブータンに行ったと理解するとして、サージャンが最後に配達屋と同じ電車に乗っていたのは、一つはイラの家に向かったのだろう。じゃあすれ違いかも。でも、元々弁当が誤配で二人は出会い、「電車は間違っても目的地には着く」のだから、やはり二人は再会したんじゃないかなあ。

 ただ、なんとなくインドって最後はガンジス川でしょ。見たいな感じがあるので、すこーし、嫌な結末も想像しちゃったりするけれども。
 サージャンが隣の家の子と心通じた場面があるのはつまり、他者(イラ)と関わる勇気を持てたと解釈していいのじゃないかなと。
 えーいとりあえずいい映画なのです。

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