さて、αブロガーである磯崎さんが、メルマガで
週刊isologue(第170号)上場株式の譲渡益等の税率はなぜ10%がいいのか?
という記事を書かれているので反論したいと思う。
なお有料メルマガで、上記記事もお金を払わないと読めませんが、大変面白いので購読をお勧めします。
1.状況
現在日本の税制上、上場株式の譲渡益に対しては、本来20%の税率であるところ、軽減されており10%となっている。これは平成15年より延長に延長を重ね平成25年末まで続くことになっているが、それ以降は20%に戻る予定となっている。
なお、この10%の減税のために、年間数千億円の税収を失っている。約10年続いており失った税収は数兆円に上ると思われる。
減税による税収減額
平成20 年度 4,482 万人 1,486 億円(所得税)+371億円(地方税)
平成19 年度 4,291 万人 3,492 億円+873億円
平成18 年度 4,232 万人 2,988 億円+747億円
(参考)平成23年度税制改正(租税特別措置法)要望事項
(参考)平成23年度税制改正(地方税)要望事項
そして、磯崎さんや証券業界が、この軽減税率の延長を求めて署名を集めている。
しかし、私はこの減税は費用に対して余りにも効果が少なく、他の所得税や、消費税にしわ寄せがくるものであり、是非とも元の20%に戻すべきだと考えている。
2.海外の税率はどれくらいか
まず、国内の政策を考える上で海外の事例は一つ参考になる。
財務省のサイトが分かりやすい。
アメリカ
300万円程度まで非課税。それ以上は15%
イギリス
400万円程度まで18%。それ以上は28%
(なお!起業家には10%の軽減税率!)
ドイツ
26.375%
フランス
32.5%
日本は、現在いくら所得があっても10%。元に戻してもなお20%
異常に低い税率(特に高所得者にとって)であることは一目瞭然だ。
3.この政策の合理性はあるか。
次に日本国内の事を考える。現在、軽減されている理由は以下である。
1. 政策目的
経済の持続的な成長を支える資金の供給促進を図る観点から、必要な税制上の措置を講じ、活力のある市場を構築する。
2.施策の必要性
現下の経済金融情勢、配当の二重課税問題等に鑑みれば、経済の持続的な成長を支える資金の供給促進に係る政策的要請は引き続き大きく、投資しやすい税制を構築する必要がある。
毎年数千億円を費やす価値があるかどうか検証が必要だ。
その成果であるべき、例えば個人投資家数を拾ってみると以下のようである。なお、制度導入は平成15年1月1日から。
株式分布状況調査/東京証券取引所
グラフを読むに当たって、東証の解説を拾ってみると、
平成21年はジャスダックが計算に入れられたもので、グラフでは増えているが実数では前年より減っている。
平成14年時点でも、すでに7年連続個人投資家増加中で、元々個人投資家は増加している。
平成16、17年は株式分割等の投資単位引き下げが多く、新規上場も多かった時期で個人投資家が増えた。
平成20年の増加は、株価下落で、利益を夢見た個人投資家が増えたとの分析である。
そもそも、この軽減税率に効果があったかどうかの検証は難しいが、投資家数は景気や上場企業数等に左右されるのであって、税率の意味には疑問を感じる。
また、仮に寄与があったとしても少なくともここ1~2年の動きを見ると、その役割は終えているのではないか。
3.上場株式の譲渡益税はいかにあるべきか
上場株式の譲渡益税は圧倒的に税率が低い
日本の税率はグラフにしてみると次のようになる。
上場株式の譲渡益への税率が最も低いことが分かる(配当はこれよりも安くなるが、この議論には重要でないので省く)。
さらに、このグラフではわからない事に、上場株式の譲渡益以外は社会保険料(自治体にもよるが給与や個人事業主であれば所得の10%以上)などが追加で掛かってくる。上場株式も、確定申告してしまうとかかるが、普通の人は損失が出ていない限り確定申告を行わない。
したがって、このグラフよりも、さらに負担率は10%以上の差がでる。上場株式の譲渡益に課される税率は圧倒的に低いといえる。
税率が低い事に根拠があるか
税率が低い根拠の一つとして、磯崎氏のメルマガに次のような説明がある。
つまり、キャピタルゲインに対する課税というのは、原則として譲渡してはじめて発生するわけですから、あまりにキャピタルゲインの税率が高いと、資産を持ってる人は、「その資産を是非売ってくれ」という人が現れても売らなくなっちゃうわけです。
これについては、他の所得に対する税金も、消費を抑制する効果があるわけだし、同じ理由で低く抑えられている不動産の譲渡所得は20%の税率である。税はあらゆる場面で、経済に悪影響を及ぼすということは同じで、上場株式の譲渡益だけが優遇される説明はできない。
また、感覚的に20%の税率になった程度で譲渡をためらうだろうか。これは、中小企業しか相手にしていない私には分からない感覚かもしれないが。
低所得者の負担が増えるか
次のようなことも書かれている。
例えば年収300万円だと、所得税・住民税の合計額が60万円(20%)を切ると思いますので、税率20%の分離課税にするとなると、負担率は(お金持ちでもないのに)上がってしまうわけです。
そもそも15%の税率の人は所得が195万円という限られた範囲である上、これは前述のとおり社会保険料等を考えると、20%に戻ったとしても、低所得者でにとってさえ株式の譲渡益の税率は最も低い状態であり続ける。
まとめ
上場株式の譲渡益の軽減税率は、諸外国と比較しても低すぎる。
国内の他の税よりも税率を下げる理由は特段見当たらず、数千億かけるメリットはない。
この税率の恩恵は(諸外国では当然にはずされる)高所得者も受けることが出来、高所得者が低所得者の労働に対する税率よりも低いというのが現状である。
したがって、一刻も早く軽減税率は撤廃して、少なくとも20%の税率まで戻すべきである。そして、圧倒的に不足している財源の足しにすべきだと考える。
Pages:
日本の株式市場は地盤沈下が著しいです。バブルのころは世界一の出来高と売買代金を誇りましたが、いまは上海や香港、シンガポールと並ぶアジアの一市場の扱いです。
ライバルの香港やシンガポールは譲渡益税そのものがありません。譲渡益税の増税は日本市場の地盤沈下をいっそう進めるでしょう。国内事情だけでなく、そういう観点も考えてください。
日本は金融立国をめざすのでしょうかね。