Monthly Archives: 8月 2014

フィクション『族長の秋』ガブリエル・ガルシア=マルケス

 最近男のマザコンの作品ばかり見ている気がする。書いてないけど「冷たい熱帯魚」とかもマザコン映画だった。ノンフィクションなりの怖さがかなりあったけど。
 この本もマザコン本だと思って読むとそうとしか思えなくなるので、できるだけ別の角度から(笑)
 まずもって訳がいいなあと思う。鼓直(つづみただし)さんという方の訳で、最初こそ舟をこぎながら読んでいたけど、中盤からは一気に読み進められた。

 精密検査の結果によれば、動脈はガラスも同然、腎臓には海岸の砂がたまっているし、心臓は愛の欠乏のためにひびが入っていた。
P347

 あえて抜き出そうとしてみると、こういう流れのいい文章とか。これは、かなり終盤で、エンディングに真っ逆さまに転がっていく最中のセリフ。ここまで民衆からの愛に飢えた独裁者としての流れを汲んで、なんとも面白い一文。

 全体の文章構成も非常に変わっていて、目次には
族長の旅・・・・・・・・・・・・5
解説・・・・・・中島京子 369
だけ。
 途中に章立てとかなく、しかも段落が代わることもほぼ無く、主語も「われわれ」となっていて、語り手がしれっと変わって場面転回がわかりにくい。ちなみに段落が変わるのは P64 P119 P171 P224 P289 の5回だけ(ミムラ調べ)。段落としては6段落ですね。
 携帯小説の作家が読んだらびっくりするに違いない。そうでなくてもびっくりするのに。
 あとがきで知ったけども、ノーベル文学賞の受賞者だそうで。
 ひとつは無駄を省いたのだろうし、ひとつには、全体として一つの物語という意識があるのではなかろうか。彼なりに愛を手に入れられそうなところもあったり、悪政も善政もあったり、そんな中で彼の大統領としての人生が一つにまとまっちょるんだなと。

 物語としては、愛に飢えた独裁者のかなり長い大統領生活を綴ったもの。虐殺もレイプも好き放題やりまくる独裁者。文字が読めないほど学がない設定なので、政治色が強まりそうな大統領の物語にしては内容としても超平易。
 で、読んでいけば読んでいくほど、なんとなーくこの大統領に親近感が沸いてくる。そりゃあそうで、この大統領、大統領に留まっていられる原因は「勘が鋭い」だけで、あとやる事は愛されたくてやることばっかりなので。

 作者のガボさんは、コロンビアに生まれ、キューバにも住み、カストロさんとも仲良くしていたとか。
 彼にとって見える独裁者はこんなもんだったのかもしれない。
 自分なんかは、独裁者は、彼らは彼らなりの「正義」があるもんだと勝手に思い、「人間としては」擁護する気になったりもするけど。ちょっとイメージと違うなあというものを見させられて、若干のカルチャーショック。

 最後のほうで

結局、喜劇的な専制君主は、どちら側がこの生の裏であり、表であるのか、ついに知ることはなかったのだ。
P364

となる。
 ガボさんは独裁者を、独裁者としてというよりは、現実の「生」から目をそらした悲しい人間だと切り捨ててしまったんだなあと。身近で独裁を見た人の視野というものを味あわせてもらった気がする。
 ひっじょーに名作だとおもふ。また読もう。

 自分が思っているよりも、もっともっともっと世の中は単純かも知れんなー。

映画『ルビー・スパークス』/ゾーイ・カザン

 どうも。事務所の映画好きな後輩氏に「絶対先輩好きです!」と言われてみてみた映画。ふむ。
 ネタバレなんて気にしない(宣言)。

  処女作で大成功し、二作目が書けない小説家カルヴァンが主人公。人付き合いが極度に苦手で、精神科医のススメで理想の女の子を小説に書いていた。精神科医にかかっている直接的な原因は不明。
 とっさに夢に理想の女の子が現れ、わわわっと小説を書き、ある朝起きると小説に書いている女の子が実体化して現れている。さあ大変。そのヒロインの名前が「ルビー・スパークス」。ちなみに最初の夢に出てきたとき履いていたカラータイツがルビー色。
 実体化して現れたときには、下着に大きめのカッターシャツ(上着のみ)って、なんですかね。これ。最高です。

 序盤で、兄ハリーが、弟に小説に書いたまま(書き加えるとそのように変わる)の女性が現れた事実を理解した上で、

“For men everywhere tell me you’er not gonna let that go to waste.”
男として頼む、この奇跡を無駄にするな

と。なんつーか、男の最も醜いところを文章化された感じで心が痛む。
 兄的には小説を書き加えて巨乳にしたいばっかりのようだがw

 「自分の事しか考えない」「女性を理想化しすぎる」男性を厳しく皮肉る映画で、見ながら「ごめんなさい」と心で何度思ったか。
 予断だけども女性の書いた脚本かなーと思いながら見ていましたが。やはりそうで、いやそれ以上で、脚本は映画のヒロインでもあるゾーイカザンなのだと。主人公のポール・ダノは、映画を離れてもなんとゾーイカザンのパートナーだそうで。

 そんなこんなで「ごめんなさい」と思いながら見ているわけですが、さんざんやりたい放題やった挙句、心身の拘束から彼女の記憶をリセットした上で解放する。
 カルヴァンは打ちひしがれながらも、それを小説にし、復活し、なんやかんやで家族とのわだかまりも解消。ちょっと成長しました感をもった散歩途中に、また以前の記憶をなくしているルビーと再開し、やり直すところでお話終了。ルビーはカラータイツもはいておらず、読まないといっていた小説を読んでいたり。
 理想どおりの彼女じゃないけど、受け入れたという象徴なのかな。にしてはw

 至極面白いと思うけど。モテない男の最も駄目な思考と思う「自分なんかじゃ申し訳ない」ってのは書いて欲しかったかなw
 利己と利他がぐっちゃぐっちゃになるのが、人間の面白いところだと思うんだな。映画としては、男の「利己」が強すぎで、申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。
 女性はどー見るんだろう。

映画『告白』監督:中島哲也 原作:湊かなえ

ネタバレなんて気にしない!

 憎しみってのはやっぱり、その人の人間らしさを映し出すという点で、非常に美しいですよ。松たか子と木村佳乃の美しき名演技を見られただけで大満足です。
 また、音楽の演出が憎いですね。

 挿入歌の Last Flowers – Radiohead これがたまらない。
 コンビニで店員さんのしゃべっている声は聞こえないのに、それに対応する木村佳乃の絶望の声だけが聞こえてくる。一切の雑音が排除された音の演出がめっちゃ心をゆさぶってきやした。

 中身的には、子供を殺された松たか子演じる森口先生が、その殺した生徒の牛乳にこっそりHIVに感染している血液を混ぜて飲ませる、ってなところから始まる。そのクラスの子たちには、人殺しであることと、牛乳に血液が混じっていることをも伝えられ、殺した子は当然苛められる。
 原作が推理小説ってなことで、それぞれがそれぞれの気持ちや事実を告白していくことで、事実がちょっとずつ明らかになっていく。そんなに目新しいことがあるわけではないけど。中学生の行き当たりばったりな思考が明らかになるのは、身に覚えがあるような。
 不安定な生徒が、より不安定になり、どんどん状況は悪化していく。

 この映画、母親から子供への愛だけが真実だという書き方がしてあるんだと私は思ったけれども(そーいう映画ではない。はずだがw)。多少いびつながらも。それを裏にしっかり「憎しみ」がこれでもかと描かれていて面白かった。

 エンディングも、結構好きだなー。あれ、最後おっかあは死んでないよね。メインの回路切っていたし、松たか子の最後の涙声は母としての声ですよ。本人は憎くても、他の母を傷つけるようなことができるような流れではなかったとおもふ。けど。どうかな。