『日本永代蔵』井原西鶴 訳・注 暉峻康隆

 井原西鶴たん「日本永代蔵」
 1600年代の金儲け話総集編。
  金平糖の作り方を発見するプロジェクトX型の話から、両替時にちょいと重さを誤魔化しちゃうような悪い金儲けまで色々はいっとる。あるいは、女に狂い贅沢に狂い金を失うような話も同時に入っておりますな。また僧への批判やお上への批判なんかも、きちんと織り込まれている。さすがにこの辺は解説を読んでなるほどといった感じですが。
 この永代蔵が出版されたと思われる1600年代後半は、出版ビジネスがようやくできてきて(井原西鶴が日本出版界初の売れっ子作家という話も!?)、お上からの出版に対する規制は厳しくなっていたそうな。そこで、評判に関わるようなモノは、ある程度伏せ字にして。名誉な話は実名が分かるような状態で書かれている。
 金の視点からみた小説は、極端にリアリティーがあって面白いですよね。特に江戸の話なんて最初から最後まで面白かったですわ。

 「世は欲の入札に仕合せ」これは是非資産家の皆様に。

男ぶりがよくて商売が上手で、世情に通じ、親に孝行で人に憎まれず、世のためになるような若者を婿に取りたいと尋ね回っても、あるはずがない。そんなのがあったら、良すぎてかえって難儀な目にあうものだ。高貴な方にさえ欠点はあるものだから、まして下々の者は十に五つの不満は見のがし、小男であろうと禿頭であろうと、商売の駆け引きが上手で、親からゆずられた財産を減らさぬほどの人なら、縁組みするがよい。(P48)

 この話は松屋さんという晒布(さらしぬの)の問屋で、金をもうけはしたが結局は贅沢が祟り借金まみれになって、不養生により主人が妻子に借金だけ残して死んでしまう。
 妻子に残されたのは3貫目(540万円)の家と、5貫目(900万円)の借金。こまったなということで、出てきたのが頼母子(たのもし)というシステム。
 町中の人に嘆願して、一人銀四匁(7200円)出してもらい、札にあたった人に家を渡すという。要するに宝くじみたいなもんで。
 妻子は3000枚の札が入ったので、12貫目(2160万円)を手にして、借金を返してさらに7貫目(1260万円)の現金が家に残ったという。
 正しい宝くじのシステムだなと思ったけどこれ如何に。

「煎じよう常とはかわる問薬」これには、江戸時代の商売に効く妙薬「長者丸(ちょうじゃがん)」の作り方が紹介されている。
 「家業」が重視されているのとかは面白い。目の前にある仕事をしっかりやれと。あと、やっちゃ行けないことリストは、非常に時代を感じて面白い。毎日風呂にはいるのも贅沢だったんだねえ。

△早起き 5両
△家業 20両
△夜業  8両
△倹約 10両
△健康  7両
この50両の薬を細かくくだき、秤目にちがいのないように気をつけて調合に念を入れ、これを朝晩のんだら、長者にならぬということは、まずありますまい。けれどもこれには大事な毒断ちがあります。
○美食と好色と絹物のふだん着
○女房の乗物外出、娘の琴や歌がるた遊び
○鼓や太鼓など息子の遊芸
○蹴鞠、楊弓(ようきゅう)、香会、俳諧
○座敷普請、茶の湯道楽
○花見、船遊び、日風呂入り
○夜歩き、博打、碁、双六
○町人の居合い抜きと剣術
○神社参拝と後生を願う心
○諸事の仲裁と保証人
○新田開発の出願と鉱山事業の仲間入り
○食事後との酒、煙草好き、あてのない京のぼり
○勧進相撲の金主、奉加帳の世話焼き
○家業のほかの小細工、金目貫の蒐集
○役者遊びと廓通い、揚屋への出入り
○月息八厘より高い借金
まずはこの通りを斑猫や砒霜石よりもおそろしい毒薬と心得て、口に出すことはもちろん、心に思ってもいけません

 この話を前フリとして、大工が落とす木くずを拾って、箸にするなどして成り上がっていく男の話が書いてある。
 西鶴たんの話は前フリが面白い、後ろは事実ベースで、事実からどんな面白教訓が導き出せるかってのが、やっぱり西鶴たんの観察眼の凄いところだと思うわけで。

 この日本永代蔵は丁度金融改革だとか物流などが急速に整備されていく時代で、商売を一代で大きくするよりも、金がないと金儲けができない時代に変わりつつあったようです。例えば、港などの整備が進んだり、巨大な金融屋ができたりしていたと。
 西鶴の小さい頃(江戸初期)の、江戸初期ドリームがあった頃を懐かしみつつ、できるだけ資本がなくても儲かった話を集めて、出版した西鶴たんでした。

日本永代蔵
●●巻一●●
一、初午は乗ってくる仕合せ
二、二台目に破る扇の的
三、波風静かに神通丸
四、昔は掛算今は当座銀
 ⇒三井八郎兵衛高利
五、世は欲の入札に仕合せ
●●巻二●●
一、世界の借家大将
 ⇒京都室町の藤屋市兵衛
二、怪我の冬神鳴
三、才覚を笠に着る大黒
 ⇒京都室町の呉服屋、大黒屋善兵衛?
四、天狗は家名の風車
五、舟人馬方 鐙屋の庭
●●巻三●●
一、煎じよう常とはかわる問薬
 ⇒日本橋材木町、鎌倉屋甚兵衛?
二、国に移して風呂釜の大臣
 ⇒豊後府内の豪商三台目萬屋三弥
三、世は抜取りの観音の眼
四、高野山借銭塚の施主
五、紙衣身代の破れ時
●●巻四●●
一、祈るしるしの紙の折敷
 ⇒京都長者町、桔梗屋甚三郎
二、心を畳込む古筆屏風
三、仕合わせの種を蒔銭
四、茶の十徳も一度に皆
五、伊勢海老の高買
●●巻五●●
一、回り遠きは時計細工
二、世渡りは淀鯉のはたらき
三、大豆一粒の光り堂
四、朝の塩籠夕の油桶
五、三匁五分曙のかね
●●巻六●●
一、銀のなる木は門口の柊
二、見立てて養子が利発
三、買置きは世の心やすい時
四、身代かたまる淀川の漆
五、知惠をはかる八十八の桝掻

Pages:
  1. 遅ればせながら
    西鶴たんの話題を取り上げてくれてありがとう。

    でもやっぱり
    「たん」という呼称は似合わないなと改めて思うw

  2. やいだ(みむら)

    西鶴たんは久々のヒット商品でした。
    この人は本当に面白かった。

    西鶴って現代で言うと誰だろうとふと考えておったのですが
    まーそれほどの人物は私の少ない知識中では思い浮かびませんでした。

    西鶴はエンターテイナーであり実業家であり
    最新の技術動向に詳しく、世間を俯瞰する目を持っている。

    あえていうなら堀江貴文くらいかなー。
    西鶴は賢かったので捕まりませんでしたが。

    西鶴たんがだめなら、
    イハラモン
    いや
    サイモン
    このへんでどうでしょうか。

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