本『銃・病原菌・鉄』Jared Diamond 訳:倉骨彰~その2~

1/16 一部修正(コメント欄参照)

 いきなり結論からくる本です。

 現代世界の不均衡を生みだした直接の要因は、西暦1500年時点における技術や政治構造の各大陸間の格差である。(中略)紀元前1万1000年、最終氷河期が終わった時点では、世界の各大陸に分散していた人類はみな狩猟採集生活を送っていた。(P20)
 なぜ、人類社会の歴史は、それぞれの大陸によってかくも異なる経路をたどって発展したのだろうか?人類社会の歴史の各大陸ごとの異なる展開こそ、人類史を大きく特徴づけるものであり、本書のテーマはそれを解することにある。(P21)

その答えは

 歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的名差異によるものではない(P35)

 豊かな人、貧しい人、世の格差は広がるばかり。メディアには豊かな国のその中でも豊かな人が、豊かになる方法をつらつらと語っておられる。その一方で一日1ドル以下で生活しているような、アフリカ諸国(エリトリア、ニジェール、エチオピア、マラウイ、シエラレオネ、リベリア、コンゴ、ブルンジ:社会実像データ図録2010年)の人たちは今飲む水を求めている。
 この差ってどこで生まれたのか。人類はそもそもアフリカから始まったはず。それがいつの間にかアフリカは欧米諸国に全く及ばないなんてことになっている。
 この差が生まれ始めたのは、発話ができるようになったと思われる5万年くらい前からといえるようだ。発話をし意思疎通を図るクロマニョン人が、ネアンデルタール人をことごとく廃絶する。ここまでは進化論の自然淘汰の話で十分理解できる。
 問題はその後、1万3000年前くらいから、遺伝子とは別の要因で人類同士の間で差がおき始める。すなわち銃であるとか、病気に対する免疫、製鉄技術等。じゃあ銃だ何だというものを扱えた民族と、扱えなかった民族の差はなんなのか。中国が前半よい感じだったのに、つい最近まで発展途上国であった原因はなんなのか。

 簡単に言ってしまえば、農耕や畜産の適した種がいたか、大陸が東西に広かったか南北に広かったか(東西が圧倒的に有利)どうか。この辺りがクリティカルな要因だったようで。 
 たまたま農耕や畜産に適した種に恵まれた民族は、畜産を行う中で病原菌の免疫を手に入れ、専門職を養えるようになり、文字や製鉄などの技術を手に入れ、政治を行えるようになり、そうでない国に対して圧倒的な力を得られるようになった。また東西に大陸が伸びているユーラシア大陸では気候や日照時間が似通っているため、農耕や畜産の伝達が早くより格差に差がついた。
 こー聞けばストンとくる言葉があるわけです。「南北問題」。
 少なくとも、「日本人は農耕民族だから」みたいな事を言うことがあるけれども、それは全く逆で農耕民族こそ世の制圧者でなのであります。

 また、西欧と東アジアの政治的な違いについては、海岸線の形で説明されています。中国は海岸線が滑らかで国家が分裂しにくく比較的まとまった政治形態で来た。それに比べ西欧は海岸線が複雑に入り組んでいるために、国が分裂しやすく多様性を認めやすい文化になっている。
 結果的に自由度の高い西欧は、弱肉強食文化でガスガス世界を食っていったが、中国は組織パワーで序盤はよかったが意思決定の難しさにより、西欧に差をつけられることになってしまった。

とまあそんなこんな

 この本は大変にためになるけど、この本で説明できるのは農耕をうまくやってきた民族と、そうでない民族の違いまで。
 今後、ヨーロッパ内でどこが覇権をとるのか、これからアメリカと中国どっちが覇権を握るのか。もしくは全く気付きもしないようなところか新世界のリーダーがでてくるのか(13,000年前に誰も予想のつかなかった事態になっているように)。そんなことは全く未知の領域なんだなと。
 武器を持たない人間を征服するという当たり前すぎる歴史を目の当たりにして、平和憲法を持つ国に生まれた若者としてはクラクラしてくるのであります。ちなみに戦争には行ってないが、国内で空襲などにあった方が「困ったら戦争という雰囲気だったからなあ」と言っていた。

 21世紀の終わりにどんな地図になっているんだろうねえ。嫌でも想像させられる、刺激的な本でございました。

いくつかの侵略

●スペイン軍とアステカ帝国(P115)
1520年アステカ帝国はスペイン軍の侵略に堪えるが、その後に大流行した天然痘によって打ちのめされた。実にコロンブス以前から95%もの人が疫病で犠牲になった。
●スペイン軍とインカ帝国(P100)
 1532年11月16日スペインの征服者ピサロが、インカ皇帝アタワルパ接触した直後、アタワルパを捕らえた。ピサロ側は168人。アタワルパ側は8万人の兵。
 スペイン側は鉄剣、鉄製の甲冑、銃、騎馬を持ち、インカ側は石の棍棒と青銅の棍棒。この日にスペイン側は一人の犠牲も出さず、7000人近くを殺した。その後の数十人の兵で何万人ものインディオを殺していった。
●南アフリカ先住民サン族の天然痘(P115)
 1713年天然痘が大流行
●オーストラリア先住民の天然痘(P115)
 1788年イギリス人がシドニーに住み始めてまもなく天然痘が大流行
●フィジー諸島の疫病(P115)
 1806年難破船アルゴ号から逃れたヨーロッパ人が持ち込んだ。
●マオリ族とモリオリ族(P77)
 1935年12月ニュージーランド沖のチャタム諸島にて、原住民のモリオリ族(2000人)が、武装したマオリ族(900人)に支配される。
 モリオリ族は狩猟民族でたいした武器ももっていなかった。マオリ族は農耕民族で武器を持ち、政治機構もあり統率などもとれていた。

社会の規模

 14章において、社会の種類を4つに分類して説明している。
・小規模血縁集団(数十人移動生活)
・部族社会(数百人定住生活)
・首長社会(数千人、首長が統治)
・国家(5万人以上官僚組織が多階層)
 下に行くほど、権力の集約が見られ、国家では奴隷制度も大規模に見られる。大きい社会になれば、奴隷に与える食料もあり、奴隷がやる仕事も大量に生まれる。なんとなく日本の最低賃金(残業でそれ以下)で働いている人を思い出したのは気のせいです。
 人数が多くなるにつれ、争いが複雑化し法律や裁判等が整えられるようになる。こういったことができない社会は、いずれ国家に征服され、ある程度の社会制度を備えることができた国家が現世に生き残ることになる。

—–(自分目次)—–
第一部
第1章 約700万円前に猿から分岐してから、約1万3000年前の氷河期の終わりに至るまでの人類の進化の歴史
第2章 過去1万3000年のあいだに、それぞれの大陸の環境の差異が、人類社会の歴史に及ぼした影響
第3章 フランシスコ・ピサロ率いる少数のスペイン軍が、インカ皇帝アタワルパ大群にペルーのカハマルカ盆地で遭遇した瞬間と、異なる大陸の民族の衝突についての考察

第二部 いくつかの究極の要因のなかで最重要と考えられる要因
第4~6章 狩猟採集から食糧生産へ移ったことによる影響、要因
第7~9章 野生の動植物をいかにして栽培化、家畜化したか
第10章 大陸の形が与えた影響

第三部 直接の要因と究極の要因を結ぶ因果の鎖
第11章 感染症の病原菌進化
第12章 食糧生産と文字の発明
第13章 技術の伝播
第14章 政治家を養うゆとり

第四部 第二部と第三部の考察の結果が世界の各大陸と重要な島々の歴史の経路にどのように当てはまるか。
第15章 オーストラリア大陸及びニューギニア
第16~17章 アジア本土と太平洋域
第18章 ヨーロッパ人とアメリカ先住民との衝突
第19章 サハラ砂漠以南のアフリカ大陸

エピローグ まだ解き明かされていない謎

Pages:
  1. 私自身がちゃんとこの本を読んでいる訳ではないのでこんなこと言うのもおこがましいっちゃおこがましいのだけど、
    >発話をし意思疎通を図るクロマニョン人が、ネアンタールジンをことごとく廃絶する。ここまでは進化論の自然淘汰の話で十分理解できる
    この部分の用語が正確かどうかは気になる……
    「ネアンデルタール人」って書いてない?

    余談ですが中国の隆盛~衰退って400年くらいの周期なんだって研究室の教授(Q大時代)が言ってたよ。
    日清戦争以降くらいに底を打って、ここから先は隆盛期か?

  2. やいだ(みむら)

    ネアンデルタール人。修正しました。感謝

     中国の歴史の周期ですか。年表をぱっと見ていますが、基礎がない上酔った頭だとさっぱり(ヲイ)。ぜひその解説は聞いてみたい。

     ところで上記本分ではしょったところですが、(P308)1433年以降、あっちこっちへの船団の派遣が中止されたらしい。その流れで造船所が解体され、外洋航行も禁じられたと。その間にガンガン成長するヨーロッパ諸国と差がついてしまった。まさに400年ちょっと。
     ヨーロッパでも同じようなことがなかったわけでもないが、国が統一されていないので、中国みたいななことにはならなかった。
     との解説。

     中国は、一つなので力を発揮するときはするが、落ちるときも一直線ということなのかも知れないですな。それは日本も同じかも。

     じゃあこれからの中国はどうなのか。
     政治はきわめて危なそうですね。一党独裁体制は資本主義と相性がよさそうなことは分かってきましたが、ネット社会はどうも一党独裁体制と相性が悪い。
     経済成長を保って、このままドドドンとあがっていくなら中国の時代かもしれないが、政治が保てなかったらどうなのだろう。
     中国は(一部の人の)一瞬のバブルで終わる可能性もあるかもねえ。いや、民主主義が一気にきて、まさに中国の時代が来たりするのかも。
     ビバ教授

    よっぱらいなのでこの辺で。
    コメントサンクス。

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