シフォン主義

 二十一世紀の資本主義論/岩井克人 という本に「美しきヘレネーの話」という章でギリシャ神話「パリスの審判」の話がある。ご存じの方が多いのだろうなあと思いながら自分のために書いてみる。

 昔昔のお話。海の女神テティス英雄ペーレウスの結婚式が行われることになった。
 この式には神々の王ゼウス自らがしきっていた。さすがにオリンポス在住の全ての神が参加。のはずなのに、そこには争いの女神エリスの姿はなかった。呼ばれていなかったのだ!(実際の結婚式でも、争いの女神を呼ぶかどうかは困りものなのかね。)
 それにキれたエリス「もっとも美しい女のもの」と書かれた黄金の林檎を、神々の元に投げ入れた!呼んでも争いの種になるんだろうが、呼ばなくても…。
 ここから、その黄金の林檎の所有者を巡り、へーラーアテーナーアプロディーテーの美女神による美しさを巡ってのバトルが勃発する。
 女子バトルに困ったゼウスは、トロイアの王子パリス(人間)に審判を押しつける。
 パリスに「もっとも美しい」と審判してもらうために
ヘーラーはアジア全土の支配権
アテーナーは戦争での勝利をもたらす英知
アプロディーテは地上で一番美しいとされているヘレネーを妻としてあたえるという約束
 を提示する。パリスはもちろんヘレネーを頂き、アプロディーテがもっとも美しい女と認定されたわけです。めでたしめでたし。

 その実、アプロディーテの美には全くふれず、アプロディーテが美しい女と認定されてしまったわけで。さらにヘレネーも本当に美しいかどうかすら明らかでないのに。実態を無視したところで、「美しき女性」という言葉が一人歩きして交換に利用される。ヘレネーちゃんはたまったもんじゃありませんが。
 この、本質を全く無視した「美しき女性」という存在。これこそが資本主義の根幹をなす「貨幣」のたとえとして本の中で描かれております。

 こっからは、もうちょっと経済っぽい話。本来は「見えざる手」によって、モノの価格は適正な値段に落ち着くはず。なのに、サブプライムローンが過剰に評価されていたり、原油価格が高騰したりする。
それは市場原理をもろに利用しているはずの投機市場によって引き起こされている。なんや経済学の教えと違う。(ごめん私工学部出身で、経済学云々言う資格はないのですが。。。)
 なんでやろか。この「二十一世紀の資本主義論」にこんな事が書いてある。

(P22)多数の専門的な投機家が、たんに生産者と消費者のあいだを仲介するだけでなく、おたがい同士で売り買いをはじめると、市場はまさにケインズの「美人コンテスト」の場に変貌してしまうのである。そして、そこで成立する価格は、実際のモノの過不足の状態から無限級数的に乖離する傾向をしめし、究極的には、たんにすべての投機家がそれを市場価格として予想しているからそれが市場価格として成立するというだけになってしまう。それはまさに「予想の無限の連鎖」のみによって支えられてしまうことになる。そのとき、市場価格は実体的な錨を失い、ささいなニュースやあやふやな噂などをきっかけに、突然乱高下をはじめてしまう可能性をもってしまうのである。

 「予想の無限の連鎖」というのは、最初の商売人は、実際に顧客にいくらで売れるかを考えている。その商売人と売買をする投機家はいくらで、その商売人に売れるか考える。その投機家と売買をする投機家は、他の投機家にいくらで売れるか考えている投機家がいる。次には・・・。
 これが続いていくと、商品の実態的な値段からどんどん値段が離れていく。投機家は商品をみずして商品の値段を決めることになる。

 この説明にケインズの美人コンテストを例に出す。そのコンテストでは、美人コンテストで「優勝した女性に投票した人」が賞金をもらえる。したがって投票する人は、美人と思われそうな人に投票する。隣の人が美人だと思いそうな人はだれか。その予想をしている隣の人はどんな予想をするんだろうか?・・・
 一番ぶっさいくな女性でも「最近はああいうのがハヤリらしい」と風評が回れば、誰も美人と思っていなくても一番ぶっさいくな女性が優勝する可能性がある。
 関係ないけど「ミス日本」とか「えっ!?」と思う人がいたりするよね。

 くどかったけど、最終的に貨幣の信用の話にも繋がる。ドルは「価値のあるモノ」として世界中が信じている。でもその本質は所詮ただの紙切れ。サブプライムローンでもあれだけのことになる。ドルが崩れ去ったらどうなるか。本来は世界的な機関で管理すべきなのだが、中なかそう言うわけにいかないという事です。
 物物交換の世界ならこんなことは起きない。貨幣という実体的に価値のないモノが、価値を持つことによって生まれる不安定さ。これが資本主義の弱点だということなのですな。

 井原西鶴の話がめちゃんこ面白かったんだけど、ココまで読んでいるひとはいないだろうなーと思いながらおしまい。

本の目次
1 二十一世紀へむけて
 二十一世紀の資本主義論
 インターネット資本主義と電子貨幣
2 短いエッセイ
 売買と買売
 商業には名前がなかった
 資本主義と「人間」
 マルジャーナの知惠
 ジョン・ローの「システム」
3 長いエッセイ
 西鶴の大晦日
 美しきヘレネーの話
 ボッグス氏の犯罪
4 経済学をめぐって
 マクロ経済学とは何か
 ケインズとシュムペーター
 無限性の経済学
 貨幣の「靴ひも」理論
 ヒト、モノ、法人
 企業とは何か
5 時代とともに
 資本主義「理念」の敗北
 歴史の終焉と歴史の現実
 日本資本主義を「不純」に
 市民社会と日本社会
 憲法九条および皇室典範改正私案
 大きなアメリカ、小さなアメリカ
 契約と信任

Pages:
  1. なんで西鶴センセの話をカットしてしまわはるんどすか……
    相対性理論(マルエツ)にもノータッチどすか……
    このサディスト!

  2. やいだ(みむら)

    シフォン主義っていう語感がたまらんよね

    西鶴ネタを書かねばという義務感にのたうち回る
    ドMでございます(笑)

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