『夏への扉』Robert Anson Heinlein 訳:福島正実

世のなべての猫好き(※)に捧げされた、夏への扉(Robert Anson Heinlein、1907年7月7日 – 1988年5月8日)読了

 コメント欄で教えてもらって、アマゾンから届いた当日、どんなもんかさらっと読み始めただけで止まらなくなった。
 主人公(Daniel Boone Davis)の騙されやすく素直すぎる天才技術屋の愛らしい素晴らしいキャラクターと、特に猫好きなわけでもない私ではありますが、その主人公と愛猫ピート(Petronius the Arbiter)との熱い友情関係に、心持ってかれました。
 その熱い友情は最初の2ページで説明され尽くされていて、個人的にはこの小説は最初の2ページだけでもいい。(ただそれだと720円+税では購入しないかも知れない)
 自分にとって後のページは、友人ピートと困難を乗り越えていく男のハードボイルドSF友情小説として消化しました。小説中盤、ピートと一緒に30年冷凍睡眠する契約をしたにもかかわらず、クソ女の策略でピートを置いて1人30年冷凍睡眠させられてしまったりする。このピートと別れてしまった所からは、ピートの事が心配で心配で、ピートの文字を探す事に熱中するあまりまともに読んでいないんじゃないかと。
 少し猫と生活がしたくなってきた。

 ちなみに、主人公は友人と文化女中器(ハイヤードガール)という家事用ロボットの会社を創業するも、その文化女中器者をその友人とその友人に取り入った女に乗っ取られる、なんという事があるわけです。そこでうちの祖父が似たような境遇だったのを思い出してみたり。ちょくちょくこの本にはどっぷり感情移入できる部分があったり。
 ただ血がつながっていないとは言え、姪との恋愛はロリコンの観点から受け入れられないなー。

 最後に、こんな一文を引用

そして未来は、いずれにしろ過去にまさる。誰がなんといおうと、世界は日に日に良くなりまさりつつあるのだ。人間精神が、その環境に徐々に環境に働きかけ、両手で、器械で、かんで、科学と技術で、新しい、よりよい世界を築いていくのだ。(P334)

 『夏への扉』の中では、タイムトリップの装置は、ものすごい天才物理学者がすんごい式をこねくり回して作ったことにしているし。この引用した文章も、良いこと言っているようだけど、時間のパラドックスの仕組みや問題点とかを解説しようとして、「あーどうにもなんね!とりあえず、技術はいいもんなんだ!」という言う開き直り半分の文章ともとれるわけで。
 この文章を引用したのは、少なくとも自分の周りの技術者・研究者で「より悪い世界にしてやろう」とかいう輩は皆無なわけで、技術・研究にネガティブイメージで凝り固まっていた自分自身がちょいと反省させられました。と言う意味で引用。
 とはいえ、「より良い世界を築いていこう」が技術や研究の主題目にもなりにくいわけで。この辺りが少しでもよくなるといいですなあ。もし「より良い世界を築いていこう」とみんなが言い始めれば、また少し違った希望もできるのかなと。時節柄、なんか希望が欲しいじゃないですか。

 ところで、2011年5月6日19時過ぎに管首相が、浜岡原発の停止を中部電力に要請したね。管首相は東工大理学部出身だっけか。この決断私は応援するよ。より良い世界を築いていきましょう。

しかし「猫小説」という分野があったとは知らなかった。よいのあったら紹介願う。

※前書きに、
—–
A・P、
フィリス、
ミックとアンネットほか
世のなべての猫好きに
この本を捧げる
—–
とある

Pages:
  1. 仕事早ぇぇぇぇぇ!
    「猫SF」を代表する名作の読破、おめでとうv
    旧訳版を読んでくれて嬉しいよー。(「漢字にカタカナルビ」の持つ独特の空気感は福島さんの功績!)

    >そして未来は、いずれにしろ過去にまさる。誰がなんといおうと、世界は日に日に良くなりまさりつつあるのだ。
    ダンは――そしてハインラインは――メリオリストなんですねェ。
    みむら氏の指摘を読んで初めて気が付いた。

  2. やいだ(みむら)

    これまたありがとうございましたー

    > 「漢字にカタカナルビ」の持つ独特の空気感

    あーこれは確かに雰囲気に多大な影響を
    読んでいるとツイ入ってしまって気付かなかったり。

    > メリオリスト

    初めて聞きました(><)
    イタリア語で「最良」?
    何事も良い方向に。ってことですかね。

  3. メリオリスト=メリオリズムを信じる人

    meliorismというスペルで引けばジーニアス英和辞典にも出てきますよ
    自分も昨年知ったばかりの言葉ですw

    余談:hired girlに「文化女中器」という字をあてるセンスって、当時の時代感を映しているという点でも卓越だと思うんです。
    新訳なんて「おそうじガール」ってんだぜ。(時代感無いな!)

  4. やいだ(みむら)

    メリオリズム・メリオリスト了解
    また一つ賢くなった。

    万能(フレキシブル)フランク
    冷凍場(サンクチュアリ)
    裸体運動(ヌーディスト)クラブ

    改めて見てみると、やっぱりとても心地よい翻訳ですなあ
    でもヤッパリ訳で一番気をつかわれたのは「護民官」に違いありませんね。
    上記ブログの中では、なんとなくArbiterを「護民官」と訳すのはどうかなあと思っていたので、
    愛猫と書いてしまいましたが、調べてみると、やっぱり「護民官」はいい訳ですわ。

    訳者にもアッパレ
    今度は小説を訳者買いしてみるか

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