Daily Archives: 2010 年 4 月 18 日

小説『ハゴロモ』よしもとばなな

 仕事でもプラーべートでも最近はストレスが多い。そのストレスのほとんどは最も辛い「自分に対する失望」。最初は他人に対しての違和感から入るのだけど、結局他人は他人なので考えていけば「自分がしゃっきりせんからだ」となってしまう。
 そんな事が続くと、フッときれたように小説を無性に読みたくなる。気持ちの良い結論があるようなミステリー小説ではなく、何気ない日常を少し切り取ったような、何気ない小説。
 その何気ない小説を、何気なく書いてくれるのが、よしもとばなな氏であると思う。この人の何気なさは半端無い。

 その町には大きな川が中心を流れ、それがいくつにも限りなく枝分かれし、蜘蛛の巣のようにめぐっている。
 そんな実家の町に、主人公のほたるちゃんが、東京での8年間の愛人生活を終え帰ってくる。町に帰ると交差点でふと見覚えのある男の人を見つける。赤いダウンジャケットを着た男。あとで祖母にきいてみると、祖母もどっかで見たことがあるという。
 その謎の関係のまま、男とほたるちゃんとは出会い、二人の絡みを中心に話が進んでいく。

コーヒーとチーズケーキが美味い喫茶店を営む祖母。
保育園開業のためにセコセコ働く占い師の娘のるみちゃん。
バス事故を予感はしたのだけど夫をとめられなかった、その悲しみと戦う女性。
その母親の世話を見る赤いダウンジャケットを着た男。

 これらの人が、よしもとばなな氏ならではの、詳細な背景設定ででてくる。ぞくぞくするのです。

 自分の好きな場面にこんなところがある。保育園の子どもが他の事をほっぽらかしてまで一生懸命育てた鳥を、近所のホームレスが食べてしまう。その時、先生であるるみちゃん園児に言った言葉をほたるちゃんに伝える。
「あのおじさんは君と見ている世界が違うから、自分の世界を大切にして、なんど壊れても作り直してね、って言うしかできなかった。」

 他にも宝の地図や、幽霊やいろいろなほっこりするような物が出てくる小説。二時間もあれば読める良い本です。少し疲れたならこっちへ来て少し休みませんか。